Future Care Lab in Japan通信 Vol.19

この連載ではFuture Care Lab in Japan(以下FCL)という研究所について、何を目指し、どんなことをしているのかをご紹介していきます。
第19回目は『現場実証の前にすべきこと』についてです。
介護テクノロジーを実際の介護現場で実証することは、製品の有効性や課題がないかを確認する上で不可欠です。事前の想定や模擬環境での検証だけでは見えてこない、実環境での動作やご利用者の反応を把握することで、製品をより良く改善していくことができます。
そのため、介護テクノロジーの開発企業から、「現場での実証を行いたい」「ご利用者に使用感を聞きたい」という相談をいただくことは多いです。
しかし、私たちはどんな介護テクノロジーであっても、いきなり現場へ持ち込むことはしません。必ず模擬環境での実証を経て、介護現場での実証を行うステップを踏んでいます。
― どのような目的で実証をするのか ―
まず確認しなければいけないことは、どのような目的でそのテクノロジーを使った実証を行うのか明確になっているかです。実証する目的を決めずに「とりあえず現場で試してみる」では、せっかく実証をしても何を確認して、何を評価すればよいのか分かりません。例えば、見守りセンサーのような機器の場合を考えてみましょう。センサーの精度を確認したいのか(精度については後述します)、それとも既存の運用をセンサーに置き換えることができるのか。これらの目的によって、実証で確認する内容は大きく異なります。
また計画する段階で、類似の先行事例がないかを確認することも大切です。先行事例を確認することは難しい部分もあります。しかし、例えば公的機関の事例報告などを確認することや、同じテクノロジーを使っているほかの法人に話を聞くことができれば、わざわざ同じ実証をして似たような結果を出す必要もありません。また先行事例を参考に、それが明らかにしていない部分に的を絞って実証することができれば、確認すべき項目や期間を短縮することもできるようになるからです。
― 現場で期待した精度で安全に使えるのか ―
製品精度の裏付けや安全性が不確かなまま、いきなり現場実証を行うとどうなるでしょうか?
例えば、見守りセンサーのような機器であれば、間違ってアラームが鳴ったり、肝心なときに反応しなかったりすれば、現場を混乱させてしまいます。また、移乗支援機器であれば、使い方によってはご利用者がケガをしてしまうリスクがあります。このように、その製品の精度・安全性に課題がないかよく確認をしないまま現場で試すことは、介護現場に無用な負担を強いることになり、場合によってはご利用者を危険にさらすことに繋がります。
そのためFCLでは、まず開発企業が実施したテストのデータ(試験条件や件数、評価基準など)を見せていただき、結果が確かなものかを確認します。その上で、FCL内の模擬環境で現物を動かし、期待通りの精度があるか、安全性に問題がないかを自分たちの目で確かめます。「本当に現場でご利用者に試していただかないと、わからないことなのか?」を見極め、現場に進む前に『あらかじめ確認できることは、すべて確認しきっておく』ことが大変重要だと考えています。
― ご利用者の権利を守る(倫理面への配慮) ―
ご利用者を被験者とした介護テクノロジーを実証する場合、「倫理面での配慮」が絶対に必要です。
施設入居されるご利用者は、年齢により判断力が低下している可能性があります。また、施設という環境下では、ご利用者さまと施設側との関係性から、「いつもお世話になっているから断りづらい」「断ると不利益があるのでは」と、ご利用者が無意識に遠慮や心理的負担を感じてしまう場面が生じやすいものです。こうした方々は、社会的に立場の弱い状況に置かれやすいと言えます。そのため、その方々の人格や人権を尊重し、実証に伴うリスクを最小限に抑えることは不可欠です。
具体的には、ご本人にわかりやすく説明し、自由な意思で参加や辞退を選んで同意していただくこと(インフォームドコンセント)が求められます。ご自身での判断が難しい場合は、ご家族に代わって同意していただく必要もあります。もちろん、個人情報を適切に扱うプライバシー保護の観点も重要です。
こうした「人を対象とする研究のルール」には、世界医師会が定めた「ヘルシンキ宣言」という世界的な倫理原則があります。特に立場の弱い方々を保護する必要性を強調しており、日本におけるルールの基盤にもなっています。私たちはこうした原則に従い、丁寧な準備を行っています。
(ヘルシンキ宣言:https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/helsinki.html)
― 現場はご利用者のお住まいであるということ ―
このように、介護テクノロジーを現場で実証する前段階で、事前に確認できることは確認しきっておくことが必要です。そして、現場実証をするうえで倫理的配慮をするなど、丁寧な準備を行うことが大切です。
私たち介護事業者は、ご利用者の安全で快適な暮らしを支えています。介護現場は、あくまで「ご利用者のお住まい」が大前提であり、安心・安全な生活を脅かすことがあってはなりません。
新しい介護テクノロジーの開発や導入に関わるすべての人は、この大前提を理解し、正しいルールや配慮を学んでいく必要があります。
FCLでは、年間を通してさまざまな介護テクノロジーの検証を行っています。FCL内の模擬環境で年間60件程度の検証を行っても、現場実証は年間20件程度です。
私たちFCLが「現場の安心・安全を一番に考えている結果」であることを、少しでも知っていただけると幸いです。
これからもより良いテクノロジーを求めて、研究を続けていきます。







