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連載
2025.11.10

Future Care Lab in Japan通信 Vol.14

この連載ではFuture Care Lab in Japan(以下FCL)という研究所について、何を目指し、どんなことをしているのかをご紹介していきます。

 

第14回目は『メーカーの実証評価支援(移乗機器)』について

FCLでは、年間累計200社ほどのメーカーと接点があります。メーカーからの相談依頼対応や、メーカーが持っている製品や技術について、こちらから問い合わせをするなどしています。中には、メーカーから製品の実証評価※支援の依頼を受けることがあり、有償で承ることもあります。今回はその中の一つ「移乗機器」の実証支援の事例についてお届けします。

(※実証評価とは、介護テクノロジーの有効性や実用性を、実際の介護現場で検証・測定するプロセスです。)

― テクノロジー普及の現状 ―

厚生労働省と経済産業省は、「ロボット技術の介護利用における重点分野」(2012年策定、2014年・2017年改定)を定めています。これは、介護ロボットやICT等のテクノロジー活用により、介護サービスの質向上、職員負担軽減、高齢者等の自立支援による生活の質の維持・向上を目指す取組みです。

下の図は、重点分野と普及率を示したものです。国は介護ロボットなどの開発・導入を支援するため、さまざまな支援事業や助成金などで後押しをしてきました。2012年策定から13年あまり経過した現在、テクノロジー全体の普及率は数%台に留まっており、一番普及している見守り・コミュニケーションでも30%という状況です。このような状況を踏まえ、更なる普及に向けた取組みが期待されます。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001268135.pdf

 

各メーカーはいろいろな製品を開発して、介護業界に貢献しようと奮闘しています。新たに業界に参入する企業はベンチャー企業であるイメージもあるでしょう。しかしFCLには、これまで介護業界とは疎遠と思われるような大手製造業者からも、介護業界に貢献したいと新製品開発に関する相談が寄せられます。

今回は、介護業界に初めて参入する大手車の部品メーカーから、新たに介護用移乗機器を開発されたとのことで、実証評価依頼のお問い合わせをいただきました。

既に発売されている移乗支援機器の製品例

― FCLで行う実証評価支援 ―

今回の移乗機器実証評価支援の依頼内容は、開発製品を現場で実際に使用し、課題や懸念点を知りたいというものでした。「まずは介護現場で試してみたい」そう思うメーカーは多いです。しかし、安全性や効果が不明なものをいきなり現場で試すことはできません。必ずFCLの研究所内で確認を行うステップを踏みます。今回もFCLで使用している下図の「テクノロジー導入評価指標」に基づき、2つのステップに分けて評価を行うこととしました。

ステップ1:性能評価では、FCLの模擬環境で、テクノロジーの仕様や性能を確認します。続けて、安全性に関するリスクの有無も確認します。

ステップ2:運用評価では、実際の介護現場を想定し、性能や使いやすさ、職員の業務負担の変化を確認します。ご利用者さまが感じた負担や介助方法変更への印象、導入・運用コストに対する現場の効果も確認します。

そして、何のために実証評価をするのか。その目的を、あらかじめ決めておくことが大変重要です。FCLの実証評価は、テクノロジー(モノやデータ)の価値のみを確認するのではありません。介護現場で従来の業務を変化させ、テクノロジーを業務に組み込めるか。ご利用者さまが生活にテクノロジーを組み込み、生活を変化させることができるか。その上でテクノロジーの効果はどうであったか。これらを介護現場と一緒に確認していくプロセスだと考えています。そのため、評価として単に○×判定をするのではなく、対象となるモノやコトの価値や重要性をしっかり見極めた評価をする旨を説明しています。

― FCL模擬環境の検証の様子 ―

FCLの模擬環境で、メーカー側の技術者にも立会いいただきながら、試作機を用いた性能評価を行いました。

基本的な操作の確認から始め、機器が利用されるシーンごとに操作性や安全性を確認します。評価項目の中には予見できる誤使用や、不具合発生下での動作など、さまざまな観点でリスク評価をしていきました。

FCL模擬環境での検証風景(※販売前であるため機器はぼかしています)

評価するテクノロジーによって確認項目は大きく異なります。そのため、FCL研究員がその都度多角的に評価設計を行います。技術的な観点については、FCLと技術コンサル契約を締結している国立研究開発法人産業技術総合研究所(通称:産総研)の先生方からアドバイスをいただき、評価設計を行っています。

私たちの研究所で実証することは、業界的な認証を与えるものではありません。しかし、現場の知見に基づいた実践に近い実証結果は、開発メーカーにとって有意義なものであると考えています。このような評価事例を積み上げ、対外的に共有していくことで、業界全体にとってプラスに働いていくと考えています。

最後に 

FCL模擬環境の性能評価では、メーカー側が気づかなかった課題や、懸念点を炙り出すことができました。そのため、現状では現場実証には進めないと判断しました。また、メーカー側には介護現場でより活用されるための具体的な助言もさせていただきました。

このように、現場で安全に使ってもらえるために、事前に評価することは大切なことだと思っています。このようなプロセスを積み重ねながら、メーカーにはより良い製品づくりに繋げてもらえればと思います。

 

世の中にはさまざまなメーカーがありますが、その全てのメーカーが介護業界に精通している訳ではありません。FCLのような研究所が、介護現場とメーカーの橋渡しをする活動は、業界の発展にとって非常に重要なことだと考えています。

FCLでは、メーカー向けに現場のニーズに対応できる未来のテクノロジーの募集を行っています。https://futurecarelab.com/solutions/ideas/

皆さん一人ひとりの声が、未来の介護を創ることに繋がります。現場でお気づきのことがありましたらぜひFCLにお問い合わせください!

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ABOUT USこの記事を書いた人

Future Care Lab in Japan
Future Care Lab in Japanです。 人間とテクノロジーの共生による持続可能で魅力ある新しい介護のあり方を創造します。