「生きる力」を灯す美文字教室 @そんぽの家 浜松高丘

今回WATCHで取り上げるのは、そんぽの家 浜松高丘の看護師 鈴木 真樹(すずき まき)さんが開催している「美文字教室」です。

美文字教室を始めたきっかけは?
経緯:現場の繋がりから生まれた「一歩」
この取組みは、そんぽの家 浜松で看護師をされている友人の鈴木 寛子さんから、習字講師としての依頼があったことがきっかけでした。
私はこれまで看護師として100人を超える方々の最期(看取り)に寄り添ってきました。その中で、いかに不自由な状況にあっても、「自分らしく表現したい」という願いが最後まで尽きないことを深く実感しています。
このご依頼を受けた際、これまで培ってきた書写の経験と看護師としての経験を組み合わせることで、ご入居者さまの心に新たな光を灯すことができると確信しました。
この思いから、美文字教室への挑戦を決意しました。
美文字教室の目的は?
目的:文字を書くことで「生きる力」を再点火する
美文字教室は、単なる技術の習得に留まりません。お手本を丁寧に写し書く「書写」の時間を通じて、以下の3つの目標達成を目指しています。
1.心を整える:集中して文字を写し書くことで静謐な時間を持ち、精神の安定を図ります。
2.主体性を引き出す:「また書きたい」「次はこうしたい」といった自発的な意欲を引き出します。
3.自信を灯す:「私にはまだ、このような美しいものが生み出せる」という独立自尊(自らの意志で自分を幸せにする力)を実感していただきます。
書写という体験を通して、ご入居者さまの「生きる力」に再び火を灯すこと。それが最大の目的です。
美文字教室の具体的な内容は?
~「知的好奇心」と「成功体験」をデザインする独自プログラム~
この教室は、単に文字を書くだけでなく、ご入居者さまの心と体に「生きる力」を灯す独自の4フェーズプログラムです。
1.【導入】知のアイスブレイク
季節や歴史、昭和の思い出話などで知的好奇心を刺激し、書く意欲を高めます。ユーモアを交え、会場を温かい雰囲気とやる気に包みます。
2.【技法】論理的な美文字指導
看護師視点の指導で、「なんとなく書く」から「書けた!」を実感できるコツを伝授します。正しい姿勢は身体のリハビリにも繋がり、字のバランスや筆の入れ方など、具体的な技術で美しい文字が書ける喜びを提供します。
3.【哲学】紙芝居による意識変革
紙芝居でご入居者さまの人生経験を「宝物」と肯定し、筆先に宿るその経験が新しい挑戦を輝かせるメッセージとなり、挑戦への不安を払拭します。
4.【結び】100点満点の清書
渾身の一文字を色紙に清書。出来栄えではなく、「新しい筆を持ち、一歩踏み出した」事実そのものに100点満点を与えていただきます。この色紙は、教室が終わった後も「自分への誇り」として居室に飾られます。
難しさを感じた場面やその対応方法は?
看護のケアプラン級の事前準備
毎月の教室は、単なる思いつきではありません。ご入居者さまにとっての1時間は、私たちが考える以上に貴重です。だからこそ、看護の「ケアプラン」と同じ熱量で事前準備に挑んでいます。導入のネタ探しや手作り紙芝居制作には特に力を入れ、「どうすれば飽きさせずに楽しんでいただけるか」「心に響く言葉は何か」を考え抜き、準備だけで数日費やすことも珍しくありません。
「心の壁」を乗り越えるサポート
教室開始直後、「字が下手だから無理」「手が震えるから恥ずかしい」と、筆を持つことに抵抗がある方がいらっしゃいます。ここで強要せず、NLP(神経言語プログラミング)※の技法を使い、いかに「心のブレーキ」を外すかが、腕の見せ所です。「震えこそが、一生懸命生きてきた証」と語りかけ、お一人おひとりの不安に寄り添い、最初の「一画」を書き出すまで全神経を集中させています。
※NLP(神経言語プログラミング)とは?
Neuro Linguistic Programmingの略で、神経(Neuro)、言語(Linguistic)、プログラミング(Programming)の3つの要素から成り立っています。神経は人間の感覚や経験を、言語はそれを表現する方法を、プログラミングは行動や思考のパターンを指します。NLPは、成功した人々の行動や思考パターンをモデル化し、それを他の人が再現できるようにすることを目的としています。
対面開催へのこだわりと手間
現在の浜松高丘ではオンラインアクティビティがメインのため、この教室のような対面イベントは、準備や会場設営に他のレクリエーション以上の手間がかかります。テーブル配置、道具準備、車椅子移動介助など、現場スタッフの協力なしには成立しません。しかし、直接顔を合わせ、対話する時間を求めるご入居者さまが多いため、この「手間」を惜しまず、貴重な時間となるよう工夫しています。
プレッシャーと報われる瞬間
ご入居者さまの体調は日々変化します。さっきまでお元気だった方が、筆を握ると疲れてしまわれることも。看護師として体調管理に気を配りつつ、限られた時間内で全員に「成功体験」を届けるのは、毎回が真剣勝負です。それでも、最後に見せる素直な想いや感動の涙を見ると、それまでの苦労やプレッシャーはすべて吹き飛び、「やってよかった」という感謝の気持ちでいっぱいになります。
美文字教室をサポートしたスタッフや参加したご入居者さまの声
サポートスタッフ
・普段あまりアクティビティに参加されないご入居者さまが、この美文字教室の時は積極的に参加される様子がみられました。毎回筆を手に取り、書き始めると集中されて空気が変わる瞬間がとても印象的です。集中して没頭する時間があるのは、とても良いことだと感じました。
・対面レクリエーションでしか得られない「温かみ」があり、参加者の方々に名札をお渡しして開始する点やお一人おひとりと会話しながら進める形態は、対面レクリエーションのメリットが活かせてとても素敵です。
・最初は「字が下手だから」といって参加していなかったご入居者さまが、鈴木さんの対応(指導)により、徐々にこの教室を楽しみにするようになり、今は自ら進んで参加するようになりました。スゴイですね!
教室開催中フォローしていただいているスタッフの方々
左:鈴木 寛子さん(そんぽの家 浜松) 中央:宮本 真貴さん(そんぽの家 浜松) 右:鵜川 恵さん(そんぽの家 浜松高丘)
参加したご入居者さま
・先生が、丁寧に小さなところまで褒めてくださるから、子どもの頃みたいに嬉しくなります。この時間がとても楽しみです。
・墨のにおいや教室の雰囲気で、自然と背筋がのびる感じがします。
・この教室に参加して、子どもの頃は墨をするのが好きだったことを懐かしく思い出しました。
伊藤 佳孝(いとう よしたか)ホーム長からのコメント
今期、私が浜松高丘へ異動となり、看護師の鈴木さんが美文字教室を行っていると前任者から引き継ぎを受けました。
実際に見学してみると、それは単なる習字の時間ではなく、鈴木さんの想いが詰まった綿密なプログラムだと知り、大きな感動を覚えました。
「全国へ広げたい」という鈴木さんの強い意思を聞き、9月に開催された静岡エリア4施設の好事例発表会でも、美文字教室を発表してもらいました。
その繋がりもあり、現在はそんぽの家富士宮・東静岡での開催が実現しています。今後は他の施設への展開も計画中です。
鈴木さんの想いは、私にも、他の管理者にも、そして何より多くのご入居者さまに届きました。美文字教室は、ご入居者さまの「楽しみ」や「希望」の第一歩となり、自立支援や生きがいづくりへと確かなつながりを生み出しています。
鈴木さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。この取組みを、ぜひ多くの方に応援していただきたいと思っています。よろしくお願いいたします!

左:鈴木 真樹さん 右:ホーム長 伊藤さん
今後の展望や目標は?
~浜松から全国へ、筆一本で「生きる希望」を届ける旅路~
対面型の教室は運営に手間がかかりますが、ご入居者さまの尊厳と主体性を引き出す「必要な投資」です。この取組み(浜松モデル)を、看護師としての知見とNLP・カウンセリングを活かした「心のケア」として、同じ事業部内の富士宮・東静岡での出張開催を皮切りに全国へ展開し、「心のバイタルを整える」共通言語としたいと考えています。
私の目標は、全国から「鈴木真樹さんの教室を」とオファーされる「心の旅人」として、筆を通じてご入居者さまに「生きる希望」を届け、「また一ヶ月頑張ろう」と励ます存在になることです。
社内からの温かい反響は、施設を越えた出張開催への大きな勇気をくれました。この「現場発の繋がり」こそSOMPOケアの強みであり、人間尊重の体現です。この記事が全国の仲間の行動のきっかけとなり、いつか皆さまのホームでご一緒できる日を楽しみにしています。ぜひ、私の挑戦を見守ってください。
ぜひ、そんぽの家 浜松高丘のホームだよりもご覧ください。
https://www.sompocare.com/service/home/kaigo/H000185/message/#head
この素晴らしい取組みが全国に広がることを心から応援しております!























