Future Care Lab in Japan通信 Vol.20

この連載ではFuture Care Lab in Japan(以下FCL)という研究所について、何を目指し、どんなことをしているのかをご紹介していきます。
今回は、FCL主催のCareTechシンポジウム『第3回 介護テクノロジーの創りかた・使われかた』について、今回と次回の2回に分けてお届けします。
このシンポジウムは、超高齢社会におけるシニア世代の暮らしに革新的な変化をもたらすスタートアップやベンチャー企業、新規事業で介護テクノロジーの開発をしている企業、また介護事業者でDXを推進されている方を対象としています。過去2回開催をさせていただき大変好評であったことをうけまして、2026年3月4日(水)に第3回の開催をしました。
今回ご紹介するのは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の梶谷先生の講演内容です。介護現場におけるテクノロジー導入のプロセスと事前検討の重要性についてお伝えします。
― 介護現場におけるテクノロジー導入の進めかた – 事前検討の重要性と実践手法 ―
冒頭梶谷先生から、一般的なビジネスの現場では、「フェイルファスト」(早く失敗して試行錯誤を繰り返す)という考え方が推奨されることが多いですが、介護分野においては「失敗することが許されるか」「失敗に気づくことができるか」という2つの観点から、慎重な検討が必要だというお話しをいただきました。
命や健康を預かる介護現場では、一つの失敗が重大な結果を招きかねません。介護現場での失敗には「①命や健康の喪失」「②人材の喪失(業務負担増による離職)」「③財産の喪失(使えない機器の購入)」「④空間の喪失」「⑤時間の喪失」「⑥やる気の喪失」という、何かを大きなダメージとともに失ってしまう特性があります。また介護に従事している方の多くは「善意」で行動しているがゆえに、「きっと上手くいく」と根拠なく思い込んでしまったり、周囲も問題点を指摘しにくくなったりして、小さな失敗に気づけない傾向があるといいます。だからこそ、致命的な失敗に繋がる前に、試行錯誤の段階で小さな失敗や成功を細分化して察知できるよう、事前の検討を徹底して行うことが重要であると語られました 。

基調講演(オンライン)の様子
では、具体的にどのような基準で事前検討を進めればよいのでしょうか。
テクノロジー導入で失敗しないための具体的な方法として、産総研とFCLが共同で開発した、テクノロジー導入を成功に導く「8つの評価観点」をご紹介いただきました。
テクノロジー導入を成功に導く「8つの評価観点」
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- 1.目的の明確化
- 2.対象者の明確化・確認
- 3.機器の事前確認
- 4.安全な使用のための事前確認
- 5.使用環境への適合性
- 6.業務への影響(妨げにならないこと)
- 7.業務変更の確認
- 8.職員の受け入れ準備と教育定着体制の構築可能性
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「介護現場におけるテクノロジーの効果的活用のための評価手法検討委員会」最終報告書
(https://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/au20240426.html)
特に近年導入が加速している「見守り分野」においては、導入の目的や効果の判断基準を事前に決めておくことや、通信環境や工事の可否を確認することが重要です。また、見守り機器は人間の目や耳の代わりとなるものであり、職員の体が増えるわけではありません。そのため、現場に合わせた「適切な台数」を検討する運用の視点も欠かせません。さらに、近隣施設での導入事例を確認することができれば、実体験にもとづいた気を付けておくべき事柄を聞くことができるかもしれません。このチェックシートや報告書はインターネット上でも公開されていますので、ぜひご参考にしていただければと思います。
― 見守り機器・カメラタイプの最新動向と今後の展望 ―
また梶谷先生からは、カメラタイプの見守り機器の導入についても、ご助言をいただきました。
10年前はプライバシーの観点からカメラタイプの見守り機器の導入はなかなか進んでいませんでした。しかしコロナ禍を経て、遠隔確認が感染対策になったことをきっかけに、部屋の中が見える利便性の高さが受け入れられつつあるようです。しかしその一方で、「監視」と「見守り」の境界をどう考えるのか、また介護者側のプライバシーと虐待防止に関する考え方のバランスをどう取るのかという、新たな議論も必要になってきています。見守り分野は機械系の介護ロボットなどに比べて信頼性の判断が難しいからこそ、先行事例などを参考にしながら、慎重かつ確実に現場へ落とし込んでいくことの重要性をお話しくださいました。
今回の講演を通じて、単にテクノロジーを導入するのではなく、なぜ導入するのか目的を明確にしたうえで、現場の運用やリスクを事前に徹底して見極めることの重要性について、改めて学ぶ機会となりました。FCLでは、テクノロジーを導入する前にさまざまな確認を行っています。詳細については「Vol.19 現場実証の前にすべきこと」に掲載していますので、ぜひご覧にいただければと思います。
今回のご講演をオンラインで視聴いただいた方の中から多くのご質問をいただきました。皆さんの関心の高さをうかがうことができ、大変学びの多い時間だったと思います。
次回は、CareTechシンポジウムの第2弾として、ご利用者の尊厳を守りながら介護の質と生産性向上を実現するための手法と具体事例について、介護現場と介護テクノロジー開発企業とのトークセッションをご紹介します。お楽しみに!!







