Future Care Lab in Japan通信 Vol.21

この連載ではFuture Care Lab in Japan(以下FCL)という研究所について、何を目指し、どんなことをしているのかをご紹介していきます。
今回は、FCL主催のCareTechシンポジウム『第3回 介護テクノロジーの創りかた・使われかた』についての第2弾です。
このシンポジウムは、超高齢社会におけるシニア世代の暮らしに革新的な変化をもたらす企業を対象としています。スタートアップやベンチャー、新規事業で介護テクノロジーの開発をしている企業、そしてDXを推進する介護事業者などが参加しました。過去2回開催をさせていただき大変好評であったことをうけまして、2026年3月4日(水)に第3回の開催をすることになりました。
今回は、ご利用者の尊厳を守りながら介護の質と生産性向上を実現するための手法と具体事例について紹介します。介護現場と介護テクノロジー開発企業とのトークセッションの模様をお届けします。
―『その人らしい生活』を支えるテクノロジー – 介護現場への導入・活用と変化 ―
その人らしい生活を支えるテクノロジー」をテーマにディスカッションが行われました。介護現場からはグループホーム野の花の管理者土肥さま、ラヴィーレ横浜洋光台の姫野ホーム長、そして睡眠センサーの開発企業としてパラマウントベッド株式会社睡眠研究所の所長、木暮さまにご登壇いただきました。単なる導入効果の報告に留まらず、現場の「人」の意識をどう変え、どう共生していくかについて、熱い議論が繰り広げられました。

オンライン配信の様子
はじめに、ラヴィーレ横浜洋光台の姫野ホーム長から事例紹介をいただきました。
同ホームでは当初、トイレセンサーを排泄確認ツールとしてのみ導入していました。しかし、睡眠センサーとデータを合わせて確認することにより、ご利用者の中途覚醒の理由がトイレに関わるものかどうかが可視化され、医療に繋げるなどの対策に役立っているとのこと。
20代から70代まで幅広い年代の職員が働いていて、テクノロジー導入当初は「今までのやり方が否定されるのではないか」「機械の精度は信用できるのか」といった不安やハレーションがあったようです。そこで姫野ホーム長からはテクノロジー導入を決定事項として現場に押し付けることをするのではなく、職員一人ひとりに対して理由と効果を丁寧に伝え続けていただいたそうです。そこには、「テクノロジーに頼れる部分は任せ、人にしかできない介護、ご利用者に寄り添うことに集中すべき」という想いがありました。それが現場に徐々に浸透していき、結果的には効率化につながりました。そこで生まれた時間を活用し、アクティビティの実施やご利用者のやりたいことの実現など、生活を豊かにするための業務時間の創出にもつなげられたとのことでした。
次に、グループホーム野の花の土肥さまから事例紹介をいただきました。
同ホームは、コロナ禍による大打撃をうけていて、求人をかけてもなかなか人材が集まらない状況に直面していました。管理者である土肥さまが自ら現場に入らざるをえない時期もあったようです。そのことで、マネジメントや職員育成に手が回らない状態に。そして残業の増加、事故の多発、ケアの質低下という「最悪の悪循環」に陥っていたとのことでした。
転機となったのは、あるとき職員から「土肥さんは土肥さんにしかできない仕事をしてください。現場は私たちに任せて」という温かくも力強い言葉でした。これに背中を押された土肥さまは、「働きやすい職場づくり」と「小規模ならではのスピード感を持った業務改善」を決意されました。
センサーを使った事例のひとつに、見守りカメラの導入事例をご紹介いただきました。
以前は、睡眠センサーによる離床検知アラートが鳴るたびに、職員は訪室して確認をしていました。転倒リスクが高いご利用者が夜間に頻繁に起き上がるため、対応する職員の心理的な負担は限界に達していたといいます。そこで同ホームは方針を大転換することに決めました。転倒予防に捕らわれるのではなく、ご本人の自由な行動を支援するため、見守りカメラの導入に至りました。離床したからといって都度訪室して無理に寝かせるということがなくなり、ご利用者は自分で納得のいく就寝準備をしてから休むように変化していきました。その結果、かつては一晩に何度も起きていた方が夜間帯に熟睡されるようになったようです。「介護者が寝かせようとするケア」から、ご利用者の意思を尊重する「本人中心の生活」へと、テクノロジーが見事に導いてくれたとのことでした。
見守り支援機器導入の重要ポイントは「目的の理解」であり、カメラの目的は「見守り」であって決して「監視」ではありません。介護職一人ひとりが高い倫理観を持って配慮し、ケアに生かすことが大切だと強調されていたところが印象的でした。また、テクノロジーの導入によって職員は「最新機器を駆使して良いケアをしている」という誇りとやりがいが生まれ、離職率は大幅に低下したとのことでした。また良い人材の採用にもつながっているようです。
―「監視」と「見守り」の境界をどう考えるか? ―
それぞれの事例発表をいただいた後、土肥さま、姫野ホーム長、そして開発側として木暮さまを交えたトークセッションが行われました。

トークセッションの様子
姫野ホーム長からは、トイレセンサーの導入当初は、ご利用者から不安の声はあったといいます。それらの訴えに常に耳を傾け、繰り返し丁寧に説明をしていったとのことでした。実際に導入した後に見えてくる現場の気づきは異なります。だからこそ、導入後も継続的な説明と配慮が必要不可欠だと話されました。そして土肥さまからは、目的を明確に説明するということと、職員全員がこの高い倫理観を共通認識として持つよう徹底していくことが大切だとのお言葉をいただきました。
開発企業からの視点で木暮さまからは、開発時は常に『自分だったら使いたいか』『自分の親に使ってほしいか』を自問自答しているといいます。それでも受け止め方は人それぞれであるため、同意をいただく際には、テクノロジーがもたらすメリットだけでなく、デメリットの両方をしっかりと理解してもらうことが基本だとのことでした。納得し、本人や家族が『あった方がいい』と思える理想の状態を共に作っていかなければいけないとのお言葉をいただきました。
皆さんが共通してお話しいただいているのは、技術がどれだけ進歩しても、ご利用者が「その人らしい生活」を送り、職員が「誇りを持ってケアに集中できる」環境を作ることであり、それを持続させていくことだということでした。テクノロジーは魔法の杖ではありません。「現場の心(人的側面)に寄り添い、丁寧な対話と高い倫理観を持って導入して初めて、その真価を発揮する」ということを改めて考えさせられるトークセッションだったように思います。
FCLでは、テクノロジー活⽤の成功は、介護現場がテクノロジーを使い続け、業務変化を定着させることであるとであると考えています。それには関わる一人ひとりが変化に適応していく「⼈的側面」への支援が不可欠です。今年度もFCLではいろいろな活動を通じて、介護現場に貢献できる活動を継続していきます!







